Joy to the world

とある中小企業のしがない技術者でクリスチャンな人が書く日記。実はメビウス症候群当事者だったり、統合失調症のパートナーがいたりする。

Angel Beats!に見る救済論

かなり今更なような気がするが、Angel Beats!を久しぶりに見返して思ったことをメモ。

Angel Beats!とは、2010年4月から6月まで放送されたTVアニメである。原作・脚本はKey所属のシナリオライター麻枝准(まえだ じゅん)が手がけた。

キャッチコピーは「―神への復讐。その最前線」である。

物語は、死後の世界の学園を舞台として展開される。物語が進むに連れて、この学園には、生前報われない人生を送った人が来るらしいということがわかる。

主人公は、この学園に迷い込んだ「音無結弦」という一人の男性である。彼は気がついたとき、何かと戦っている少女の横にいた。

その少女いわく、戦っているのは「天使」と呼ばれる人物であって、彼女はこの世界の統治者、つまり神的な、あるいは神の代理人としての役割を持っているという。

つまり、生前理不尽な人生を送った彼女らは、死後の世界において「神への復讐」としての戦いを繰り広げていたのである。

はじめはこのことに懐疑的だった音無も、徐々に彼女らと打ち解け、行動を共にするようになる。

彼らは天使と戦いつつ日常を送っているうちに、何人かの親しい友人が、生前の無念を晴らし「消える」ことを経験する。

この経験を何度か繰り返すうちに、彼らはある一つのことに気づき始める。

「この世界は救済のための世界ではないか」

それに気がついた彼らは、天使と戦う以外の、新しい目的を見出していく。

そして、やがて学園世界においてそれぞれの無念を晴らした彼らは、一人また一人と消えていくのだった。

あらすじとしては、以上で十分だろう。

 

この物語のキーポイントは一つではないと思うが、私はやはり麻枝准なりの「救済論」が、Angel Beats!を読み解く上での一番のポイントではないかと思う。

輪廻転生とか、神的概念とかは、おそらく救済論を語るための仕掛けにすぎない。

 

彼(麻枝准)は、視聴者に対して、人生の素晴らしさを伝えたかったのだと思う。

 

確かに、生きていると、人生はなんと理不尽かと思うことが多々ある。それは自分の人生にも起こるし、親しい他人の人生にも起こるし、赤の他人にも起こる。

私自身、昔の友人が、先日病気でこの世を去ったということを耳にした。彼女は非常に優秀で、この先生きていれば様々な活躍が見込まれただろう。

これは主観的に考えれば、実に理不尽である。些か極端な話であるが、例えば殺人事件を起こしたような人が生きていて、なぜ彼女が死ななければならなかったのか。

 

この疑問は、本作のヒロインである仲村ゆりも口にしている。

彼女は良い姉であったが、強盗に妹二人を殺されて、自身も何らかの理由で、若くしてこの世を去ったのである。

彼女以外にも、主要な登場人物の死因と送ってきた人生は、とても理不尽なものである。

 

麻枝准は、このような理不尽な人生についての一つの答えを、この作品で示したのである。

それが天上での学園生活と、輪廻転生という死生観なのである。理不尽な人生を送った者には、死後青春をやり直す特権が与えられ、更に転生してまた人生をやり直すことができるのである。

これが、この作品の救済論だと思う。

 

さて、以上の議論を踏まえた上で、私はこの救済論についてどう思うかということを書き記したい。

個人的には、この救済論は好きだが、賛同できない。

 

これは私のキリスト教的価値観もあるけれども、一番の理由は、人間中心すぎる。

「神」というキーワードを持ち出してはいるものの、結局神という存在を否定して(これは作中でも、そのようなことをほのめかしている)、あくまで人間中心なのである。

「私」という存在が納得できる形としての理不尽さに対する説明が、この作品の根幹なのだと思う。

 

しかし、このような思想では、根本的な救済にはならない。理不尽さという不可解で納得できない現象を説明するには、どうしても絶対者としての神が必要なのではないか。

そのような神概念がないのが、日本人が書く作品の限界なのだと思う。

キリスト教圏の作品にはそのような根幹があり、日本人もそれを真似て書こうとするのだけれども、本質が理解できないから所詮は真似事で終わってしまう。

だから、「神」という言葉を持ち出して、「神」という存在が絶対者であるような文学作品が書けないのである。

 

以上が、Angel Beats!を読んで私が思った感想である。

 

まあ、今までの議論を台無しにするようだけど、天使ちゃんマジ天使ってことでこの作品の役割は十分果たしていると思う。

おわり。