思い立って
文章を書くのが結構億劫だったのですが、最近は色々と文章を書くのを助けてくれるツールが出てきて、書き物をするハードルが下がってきました。今回は、ずっと書こうと思って書いていなかった、自分の障害について書いてみようかと思います。
はじめに
私はメビウス症候群(Moebius Syndrome)という、生まれつき表情を作ることが難しい希少な疾患を持っています。今回は、自身の経験を交えながら、メビウス症候群の概要や日常生活で感じること、そして社会的な理解についてお伝えしたいと思います。
メビウス症候群とは?
メビウス症候群は、主に顔面神経(第VII脳神経)と外転神経(第VI脳神経)が発育不全または欠損することで起こる疾患です。私の場合は、表情を作る筋肉が思うように動かせず、笑顔や怒った表情を作ることがほとんどできません。また、眼球を左右に動かすのが難しいという特徴があり、視線を移動させることにも苦労します。
私が感じる日常の困難と工夫
感情表現の方法
「表情がないと感情が伝わりにくい」と言われますが、私はそこまで不便を感じることはありません。おそらく、声のトーンや身振り手振りなどのノンバーバルコミュニケーションを無意識に活用しているからだと思います。
とはいえ、周囲の人から「無表情だから感情がない」と誤解されることもあり、コミュニケーション時に少し気を遣う場面はあります。視線を合わせることへの抵抗感
眼球を左右に動かしにくいという身体的な理由に加えて、そもそも他人と顔を合わせること自体が苦手だと感じることがあります。もしかすると、無意識のうちに自分の顔を見られたくないという気持ちが働いていたり、単純に人とのコミュニケーションが苦手(いわゆるコミュ障)な部分があるのかもしれません。
いずれにせよ視線を向けにくいことが相まって、慣れない方には「合図が分かりにくい」と感じられてしまうこともあります。吃音との関連
私は吃音も持っていますが、メビウス症候群との直接の関連性は、今のところ分かっていません。ちょっとした特技?
唇をしっかり閉じることが難しいため、唇を閉じずにストローで飲み物を飲むという、普通の人にはあまりない飲み方が自然にできてしまいます。私自身では、これをちょっとした特技のように感じています。
原因と私の診断経験
私の場合は、出生直後に表情が全くなく、唇が閉じないという特徴から、すぐにメビウス症候群であると診断されました。胎児期の神経発達障害が関与していると考えられていますが、家族には同じ疾患を持つ人がおらず、原因は明確には分かっていません。
治療とサポート
幼少期のリハビリテーション
幼少期には理学療法や言語療法を定期的に受けていました。筋肉や舌の使い方を学ぶことで、日常生活での不便をできる限り少なくすることを目指していました。まぶたの形成手術
まぶたに対する形成手術を受けたことがあります。やはり目のまわりの手術は不安でしたが、医師や家族の支えもあって無事に乗り越えることができました。心理的サポート
日常生活を送るうえで精神的な負担を減らすため、カウンセリングや家族のサポートは欠かせません。障害を持っていると感じる不安や悩みを打ち明けることで、心のバランスを保ちやすくなりました。
いじめの経験と工学の道を選んだ理由
外見や表情の違いから、いじめを受けたこともあります。一方で、対等に接してくれる人たちとの出会いもあり、さまざまな人間関係を経験してきました。
私が工学の道を選んだ理由は、もともと工学分野に興味があったことに加えて、「社会で生きていくには、一芸に秀でる必要がある」と考えたからです。家族からは「障害者である前に一人の人間」というスタンスで育てられ、自然と「生きるための戦略を持つこと」を意識するようになりました。
また、自分自身が障害を持っている分、他の障害を持つ人にも偏見が少なく、できるだけ一人の人間として向き合いたいと思っています。もちろん完璧ではありませんが、常にその姿勢を心がけています。
社会的理解への私の考え
以前は、障害への理解をもっと強く求めていましたが、エンジニアとしてキャリアを積む中で、周囲から一定の尊敬を得られるようになり、今では「社会的理解」をそれほど強く訴えることはなくなりました。
とはいえ、まだ理解を十分に得られず悩んでいる方は多いと思います。そうした方々が安心して暮らせる社会になるよう、少しでもサポートや理解が進めば良いと考えています。
まとめ
メビウス症候群と共に生きる私の経験を紹介しました。表情が作りにくいという身体的特性や、相手と顔を合わせることに抵抗感があるなどの心理的要素も相まって、コミュニケーション面ではさまざまな課題を抱えています。しかし、声のトーンや身振りといった別の表現方法を活かすことで、意外とスムーズなやり取りができる場面も多いと感じています。
いじめの経験や社会での生きづらさを通じて考えた「一芸に秀でる」ことの大切さや、障害を持つ人たちへの接し方の意識など、これまでに学んだことは多いです。私の体験が、同じような境遇にある方々やその周囲の人々にとって、一つの参考になれば幸いです。